胎児の血液循環
胎児が母親の胎内にいるときは、まだ呼吸をしていないので肺は機能していない。胎児に必要な栄養や酸素は胎盤を通して入ってくる。そのため、胎児の血液循環は成人とは異なっている。
胎児の心臓には卵円孔という穴があり、この穴を通って血液が流れている。また成人の場合は右心室から血液が排出されると肺に向かうが、胎児の場合は動脈管を通って大動脈に入る。

胎児循環は,右心からの拍出量の約90〜95%が,肺を迂回して直接体循環へ流れる。
胎児の動脈管は,胎児の全身Pao2が 低く(約25mmHg),プロスタグランジンの局所産生があることによって開存が維持される。卵円孔は,心房圧の差によって開存が維持される:肺からの血 液環流がほとんどないため左房圧は相対的に低くなっているが,胎盤からの大量の血液還流のために右房圧は相対的に高くなっている。
最初の数回の呼吸後、つまり、オギャーと泣いた時にこのシステムに著しい変化が生じる。呼吸により羊水で満たされていた肺に空気が流入し、肺血流量の増大と卵円孔の閉鎖が起こる。肺の拡張,Pao2上昇,およびPaco2の低下による血管拡張の結果,肺細動脈抵抗が急激に低下する。肋骨および胸壁の弾性力は肺の間質圧を低下させ,肺毛細血管の血流量をさらに増大させる。
肺循環が確立すると,肺からの静脈還流量が増大して左房圧を上昇させる。空気呼吸はPao2を増大させ,これにより臍動脈は収縮する。胎盤の血流が減少または途絶し,右房への血液還流を減少させる。このようにして右房圧が低下する一方で左房圧は上昇し,その結果として卵円孔の閉鎖へと至る。で,胎児の場合から反転して,体血管抵抗が肺血管抵抗より大きい状態へと移行する。これにより開存動脈管の血流方向が逆転し,血液の左右シャ ントが形成される(移行循環と呼ばれる)。

この状態は,出生直後(肺血流量の増大および卵円孔の機能的閉鎖が起こる時点)から,動脈管が通常閉鎖する約 24〜72時間後まで持続する。大動脈から動脈管およびその栄養血管へ流入する血液はPo2が高く,このことがプロスタグランジン代謝の変化とともに,動脈管の収縮および閉鎖をもたらす。動脈管が閉鎖すると,成人型循環となる。この時点で,2つの心室は直列ポンプとして働くようになり,肺循環と体循環との間の大きなシャントは消失する。なぜ、この工程が必要かと言うと、脳に酸素を優先的に送り込むためである。つまり、大動脈弓部から脳に向かったあと、動脈管を通して再灌流する。新生児の蘇生においては、右手にパルスオキシメータを付けることとなったが、これは脳への血流を反映させているので、脳への酸素化の指標となるからである。
出生直後の数日間,ストレスを受けた新生児では胎児循環に戻ることがある。低酸素症および高炭酸ガス血症を伴う仮死は,肺細動脈の収縮と動脈管の拡張とを 引き起こし,上述の過程を逆行させ,開存動脈管もしくは再開通した卵円孔またはその両方を介した右左短絡を生じさせる。その結果,このような新生児は,遷 延性肺高血圧症または胎児循環遺残症(臍帯循環は存在しないが)と呼ばれる重度の低酸素状態に陥る。治療の目標は,肺血管収縮の原因となった状態を元に戻 すことである。
卵円孔や動脈管は出生すると全て閉鎖してしまう。しかし、卵円孔や動脈管などの閉鎖が不十分であると、肺へ行く血液の量が減るため様々な障害を引き起こす。これが先天性心疾患である。スポンサーサイト
- 2012/09/15(土) |
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